大判例

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大阪地方裁判所 昭和27年(ワ)589号 判決

原告 谷田国次郎の外三名

被告 日本放送録音株式会社

一、主  文

昭和二十七年二月二十日被告会社本店にて開催の取締役会に於て可決された左記内容の決議の無効であることを確認する。

「一、被告会社の発行する株式総数弐万四千株の内発行済株数九千株に新株式八千株を発行して発行済株式総数壱万七千株とすること。

二、新株式の内容額面株式八千株一株の額面金五百円

三、発行価格 一株につき金五百円

四、払込期日 昭和二十七年 月 日

五、現物出資の定 なし

六、新株式の割当方法

定款第六条の二の規定に基き今回は株主に対する割当を行わず、八千株全株を株主以外の一般より募集する。

七、現在株主に対する通知、払込取扱銀行の定証券取引法による手続その他新株募集に必要なる細目については代表取締役に一任する。」

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、其の請求の原因として「被告会社は各種録音の企劃製作販売、レコード盤の製作販売録音機の販売等を業とし其の発行の株式総数は二万四千株内九千株発行済の会社であつて原告谷田国次郎は其の三千十株、同西川文右衛門は三千株、同八幡四郎は百株、同塩沢元治は二十株の各株主であり、且原告谷田は被告会社の相談役、他の原告三名は何れも取締役であるが、被告会社は昭和二十七年二月二十日其の本店に於て新株発行に関する決議を目的とする取締役会を開催し、取締役六名全員出席し代表取締役西知一が議長席に着き、之が審議を進め表決をなしたところ、内三名は主文記載の通りの原案に賛成し三名は反対した結果可否同数となつた。ところが被告会社取締役会規定第八条には「取締役会の決議は総取締役の過半数が出席し出席取締役の過半数を以て決し可否同数の時は議長の決するところによる」との条項があるところから、西議長は原案に賛成の意思を表明し、之により請求の趣旨記載の決議が可決された旨の宣言があつた。併し商法第二百六十条の二は取締役会の決議は取締役の過半数が出席し、其の出席取締役の過半数を以て之を為すことを定めると共に、但し書に於て定款を以て此の要件を加重することを認めているが、此の要件を軽くすることは認めていないのであるから、可否同数の場合議長をして決せしめるとの右規定は同条に違反するものである。仮にそうでないとしても斯様な場合の処置に付ては被告会社定款に何等の定めがなく、又此の場合の決議方法を取締役会規定で定めることを取締役会に委譲した定めもないのであるから、右取締役会規定第八条の定めは此の点に於ても何等効力を生じないものである。更に右規定が有効としても通常可否同数の場合議長委員長等の決するところによるとの規定のなされる場合の議長委員長等は最初の表決に参加せず可否同数となつたとき初めて投票権を行使すべきものであるに拘らず、本件に於ては議長が最初から議決権を行使した上可否同数となつた後、重ねて議決権を行使したものであるから本件取締役会決議は此の点に於ても無効である。仍て其の無効確認を求める為本訴に及ぶ。」と陳述し被告の主張に対し「被告会社が本件取締役会決議に基いて新株式五千株を発行し其の登記を為したことは認めるが其の余は否認する。右決議により発行すべき新株式の内尚三千株は未発行であるから無効確認を求める利益がある。」と述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め答弁として「原告主張事実中其の冒頭から被告会社取締役会に於て請求趣旨記載の決議の可決されたこと迄の事実及び定款に取締役会に於て可否同数の場合に付定めが無く、又此の場合の決議方法を同会規定により定めることの出来る旨の定めも無いことはすべて認めるが其の余は否認する。商法第二百六十条の二は本文但書とも可否同数の場合に付ては何等触れていないのであり、右但書も要件を加重するのは定款によることを要するものとしたにすぎない。従つて斯様な場合に付ては定款若くは取締役会規定に於て合議体の決議に関する通常の処理方法として日本国憲法第五十六条第二項、国会法第五十条、第九十二条第二項其の他に定められる例にならつて同趣旨の規定を設けることの出来るのは当然である。取締役会も一の合議体であるから其の決議の成立に関し必ず多数決によることが出来ると限らず出席者が偶数となり可否同数となる場合も起り得るのであつて、此の場合原案が廃案又は保留となることは事業の進捗に妨げとなるから議長をして決せしめることは何等商法第二百六十条の二に違反するものではない。従つて本件取締役会決議は有効であるが、仮に右決議が原告主張の如く無効であるとしても被告会社はすでに右決議に基き株式引受人を決定し、昭和二十七年三月八日新株式八千株の内五千株の払込を完了し同月十日其の登記を了した。従つて右株式引受人は既に払込により株主の地位を得て居り之を失わせることは出来ないから本件取締役会決議の無効確認を求める利益がない。」と述べた。<立証省略>

三、理  由

原告等主張事実中原告等四名の被告会社に於ける地位及び昭和二十七年二月二十日の取締役会の議事経過並に被告会社取締役会規定第八条に原告主張の定めのあることはいずれも当事者間に争の無いところであるから、以下右規定第八条の効力に付て考えると、先ず商法第二百六十条ノ二第一項の法意は定款の規定を以て決議成立の要件を加重した場合は別問題として通常は取締役の過半数が出席して其の過半数を以て決することを要求するものであつて、此の要件を更に軽減することは許されないものと解すべきである。然るに本件取締役会規定第八条は可否同数の場合で、従つて原案賛成が過半数に達しないに拘らず尚且議長の意見に応じて決議成立の効果を認め得る余地を作る趣旨に出でたものであるから、商法の右の規定に反して決議要件を緩和するものであつて許されないものと謂うべく、之に反する被告の見解は採用出来ない。従つて本件取締役会の決議は此の点に関する原告の其の余の主張に付て考える迄も無く、其の決議方法に瑕疵があるものとして当然無効と認むべきである。

進んで新株の発行に関しての被告の主張に付考えると、本件取締役会決議に基いて八千株の内五千株の発行を終つた事実は当事者間に争の無いところであり、而して取締役会の決議は会社の内部的の意思決定に過ぎないものであるから此の決議の効力と之に基いて為された会社の対外行為の効力とは別に考えねばならぬことは勿論である。従つて新株発行に付ての取締役会の決議は無効であつても、之に基いて為された新株の発行は有効と謂わねばならない。併し乍ら其の故に直ちに本件取締役会決議の無効確認の利益が無いと謂うべきではないのであつて、原告としては将来重ねて前示取締役会規定第八条が適用される事例の生ずることを防ぐために、本件取締役会決議の無効確認を求めておくだけの現実的必要があるものと解するのが相当であつて、所謂確認の利益が無いとの被告の主張は採用出来ない。

仍て原告の本訴請求を正当として認容し民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 沢井種雄)

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